病気のご紹介
低ホスファターゼ症
硬く丈夫な骨が作られるには、カルシウムやリンを中心とするミネラルが骨に適切に沈着することが大切です。このことを骨の石灰化と言い、その過程で様々な酵素や蛋白が役割を果たしています。その中の大切な酵素の一つに、組織非特異型アルカリホスファターゼ(以下TNSALPと表記)が知られています。TNSALPは、ピロリン酸という石灰化を妨げる物質を分解するとともに、ピロリン酸が分解されて出来た無機リン酸が、カルシウムと一緒に骨に沈着することを促します。このようにTNSALPは骨の石灰化に大きな役割を果たします。低ホスファターゼ症は、このTNSALPの働きが損なわれたときに発症します。
原因
低ホスファターゼ症は、TNSALPの設計図に相当する、ALPL遺伝子に異常が生じることが原因です。この結果、TNSALPの働きが損なわれることで、骨の基質にピロリン酸が溜まり、同時に無機リン酸も少なくなってしまい、骨の石灰化の程度が低い状態になってしまうと考えられています。
各個人はALPL 遺伝子を二つ持っており、それぞれ父親と母親から一つずつ由来します。この二つのALPL遺伝子の両方ともに異常がある場合、TNSALPの働きが低下し、低ホスファターゼ症を発症します。変異の種類や組み合わせでTNSALPの損なわれ方が異なるため、症状の重さも違ってきます。
片方だけの親由来のALPL遺伝子が変異している場合は、保因者と言われ、通常は症状がありません。しかし、変異の種類によっては、片方だけの変異でも発症する場合もあります。
その患者様で初めてALPL遺伝子の異常が生じる場合は少なく、その親が保有していた異常が伝わることが多いと考えられています。
症状
患者様では、TNSALPの働きが失われる程度に応じて、様々な症状がみられます。手足が変形したり痛んだり、体重の増加が悪かったり、乳歯が早期(4歳まで)に抜けてしまったりすることがあります。非常に重症の場合は、胎児期に胸郭が十分に発達出来ないことで肺の形成が悪く、産まれてから充分に呼吸が出来ない場合もあります。また、TNSALPはビタミンB6 を脳の中へ運ぶことの出来る形に変える役割もあるのですが、それが出来ないために脳にビタミンB6が 足りない状態となり、けいれんが引き起こされることもあります。
こうした症状は、年齢や重症度の違いにより、6つの病型(周産期重症型、周産期良性型、乳児型、小児型、成人型、歯限局型)に分類されることが多いです。低ホスファターゼ症のその後の経過は、病型によって大きく違います。産まれる前後や乳児の頃に発症し、生存率が50%以下(後述の酵素補充療法の開発前)である重症の病型から、大人になって骨折のリスクが高まる程度の良好な病型まで、非常に幅が広いです。我が国での重症型の発症頻度は 150000 人に1人程度と推定されています。
検査
低ホスファターゼ症が疑われた場合、骨のレントゲン撮影や血液・尿検査が行われます。骨のレントゲンでは、骨の低石灰化や変形、くる病様変化(手足の骨の端がけば立ったり広がったりする変化)がみられてきます。血液検査では、 血清のALP 値(TNSALPの活性を反映)が年齢別の正常値と比べて低くなっており、診断に大きな役割を果たします。
また、TNSALPによって分解されるはずだったピロリン酸などの物質が、血液や尿で高値になります。遺伝子検査でTNSALP の働きを損なうようなALPL遺伝子の異常を検出した場合は、遺伝学的に診断が確定します。
治療
かつては、低ホスファターゼ症に対して、それぞれの症状に対応する治療しかありませんでした。しかし、近年になり、TNSALPの補充薬であるアスホターゼアルファが登場し、治療が大きく変わりました。この薬は、週に3-6回皮下注射で投与すると、骨に留まってTNSALPとして働きます。この酵素補充療法により、重症患者での最終治験では、生命予後の著明な改善が示されました。投薬中は、骨の石灰化が進むことから、低カルシウム血症に注意する必要があります。我が国では、2015 年に低ホスファターゼ症に対するアスホターゼアルファの使用が承認され、生後間もない赤ちゃんや乳児の重症例や、生活に影響するような骨の痛みなどの症状がみられる小児や成人の患者様に対して使用されてきています。
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
「指定難病と小児慢性特定疾病に関連した先天性骨系統疾患の適切な診断の実施と医療水準およびQOLの向上をめざした研究」